「猪谷六合雄―人間の原型・合理主義自然人 (平凡社ライブラリー)」の関連商品
記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方 (ブルーバックス)
加齢と伴に失われる記憶力を何とかしたいと思って7年前に購入したが、久々に出してきて読んでみると、実はいくつか当たり前のことに気づかされた(第6章)。
つまり、物忘れというが、実は「忘れてしまったのではなく、単に初めから覚えていない」と指摘されるが、実はこれは痛いポイントである。
若いとき、毎日単語帳を見ていたような努力を最近していないことに気づかされる。
ただ、「熱中できなくなって感動も薄くなってくるから、記憶しにくくなる」という面もあるとは言っている。
また、夢は脳の情報を整え、記憶を強化するために必要な過程であるそうで、新しい知識や技法を記憶するには6時間以上の睡眠が欠かせないとか。
寝ている間に記憶が整理され、理解できなかったことが理解できるようになる現象を、「レミニセンス現象」というとのことだ。これは、経験則的にもピンとくる話である。
さらに、脳が記憶するときには、事象の「理解の仕方」も同時に記憶しているそうだ。従って、ある科目のどこかを十分に理解すると、ほかの部分の理解が進むと言うことだ。
第5章までは記憶についての知見の整理である。興味深いのは、
・記憶には5種類あり、意識に上るものが、「エピソード記憶」、「短期記憶」であり、無意識のものが、「意味記憶(きっかけで初めて思い出す)」、「プライミング記憶」、「手続き記憶(体で覚えるもの)」である。歳を取ると、高次の記憶から喪失していく。
・海馬の神経回路には、大脳皮質の側頭葉(物事を認識する部位)→歯状回→CA3野→CA1野→側頭葉と情報が整理されて流れると考えられている。
・LTP(long-term Potentiaion)という現象が重要。刺激を与えると伝達効率がよくなり、これが持続する(つまり記憶が強化される)という現象。
・動物にストレスを与えるとLTPが形成されにくくなる。つまし、ストレスは記憶の妨げになる。
など、基礎的な事項についての易しい説明がありがたい。
笹まくら (新潮文庫)
数年前のイラク人質事件の三人とこの主人公の境遇は似ている。もっとも事件については表面的な事実しか知らないのだが、怒り狂っていた大多数の日本人も同じだろう。この十年間あれほど憎まれた人達もいない、そして私には彼等への憎悪が不可解だった。この主人公への周囲の軽蔑にも同質の不可解さを感じた。
憎まれたのは、彼等の行為が古代日本で不均衡に重罪とされた田を壊す罪と同質だからだ。日本社会の暗黙の掟を破ったからなのだ。日本人の人生は今も昔も権力者の為に立派な建造物とおコメを皆で作ることだけであり、掟はその際決して文句を言ったり石を運ぶ列を乱したり物を考えたりしないこと。列を乱すこと自体が重大なのであり主観や倫理はどうでもよい。責任などという観念とは勿論無関係。たんに生存と安全が脅かされるから掟破りとされるのだ。この相互我慢義務型奴隷倫理と相互監視義務が掟の正体。常に「兵隊であること。」が日本人の義務なのだ。「世間」を乱すこと自体が掟破りなのであり、一生消えぬ反日的不可触民の烙印が押される。権力者に対する問答無用の平身低頭義務の欠落した規範感覚と人格の持ち主と看做され、体制や主流思想、戦争評価が変わっても一生許されない。この点、主人公と人質三人は似ている。主人公は臣民の列に入れてもらおうと必死だ。で、彼女の元へは行けない。ところが心の底では、自分が一生許されぬこと、そして戦後も心の中の恋人だけに庇護され続けてきたことを知っている。だから彼女の訃報に接した瞬間から、見当識を欠く自己喪失者になってしまう。救済は日本人(兵隊)になることを諦める以外にはない。再び逃亡奴隷になることを決意し漸く精神の均衡を得ることができたのだと思う。
打ちのめされるようなすごい本
打ちのめされるようなすごい本、とは、まさに本書のことである。
ここには人間米原万里がいる。
本書に比べたら「魔女の一ダース」も「オリガ・モリソヴナ」もカスのようなものである。
恥も外聞も見栄も虚飾もかなぐり捨てた、生身の人間、裸の米原万里(誰だ、そんなもの見たくないと言ってている人は?!)が、まさしく赤裸々に自分自身をあらわにしているのだ。
正直、私は愕然とした。
米原万里のこうした一面を、それまでの書物からは読み取ることが出来なかったからだ。いや、この本からしか読み取ることが出来ないのだ。
本書で打ちのめされない人がいるとすれば、それは、タダひとり、故米原万里だけである。
ただの書評集だと思ったら大間違い。
文句なしの最高傑作だ。